ようこそ、保健所情報支援システムへ。~平成28年度地域保健推進事業(全国保健所長会協力事業)~

中間取りまとめ

別添
平成22 年6 月21 日
厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課食中毒被害情報管理室
食中毒調査に係る病因物質不明事例の情報提供等に係る中間取りまとめ

Ⅰ.概要
厚生労働省においては、平成21 年7 月に、都道府県、保健所設置市及び特別区(以下「都道府県等」という。)の食品衛生部局に対し、「一過性の下痢、嘔気および嘔吐を主症状とする集団発生であり、既知の病原物質が検出されない、あるいは検出されても症状等と合致しない有症例。」を症例定義とする有症例の情報提供及び当該事例に係る残品、吐瀉物等の検体提供の協力を依頼し、全国各地の事例が同一の原因によるものか等を明らかにし、その対策を講じるための状況把握に努めている。
また、これら得られた情報等については、国立試験研究機関において、原因食品を推定するための疫学的解析や推定される病因物質(病原微生物、細菌毒、寄生虫、マリントキシン等)に係る基礎的な研究が進められている。
今般、都道府県等に情報提供を依頼してから概ね1年が経過したことを踏まえ、これまでの有症例報告状況及び病因物質特定のための基礎的な調査研究に係る中間取りまとめを行った。

Ⅱ.病因物質不明有症例の報告状況

Ⅲ.生食用鮮魚介類を共通食とする原因不明食中毒病因物質調査中間報告
(国立医薬品食品衛生研究所衛生微生物部 小西良子、鎌田洋一、大西貴弘)

1. 目的
近年、食後数時間程度で一過性の下痢や嘔吐を呈し、軽症で終わる有症事例が報告されている。地方衛生研究所等で、食中毒を誘起する病原細菌、病原微生物、化学物質等の検査が実施されたが、その特定に至っていない症例である。当該の有症事例は平成12 年以降中四国(瀬戸内沿岸)において発生が認識され、現在は多くの都道府県において報告がみられるようになっている。事例の集積に従い、喫食状況の調査結果も蓄積し、原因食品の1つに「ヒラメ」が推測されるようになった。平成20 年度に市場に流通しているヒラメを対照に細菌学的検査ならびに寄生虫学的検査を行った。その結果、60 検体中2 検体の腎臓からStreptococcus parauberis を検出し、1検体の筋肉部分から粘液胞子虫の1 種、Kudoa 属を検出した。
平成21 年度は、各自治体の協力のもと、原因物質食中毒および有症苦情
事例の喫食検体の可能性の高い事例検体を収集し、検討をおこなった。

2. 検査材料、検査項目ならびに方法
2-1. 検査材料
検査材料は 表3 に示した事例検体を用いた。対照ヒラメとして平成21 年度に検査に用いた東京都築地市場より購入したヒラメを用いた。ともに検査に供するまで-80℃で保存した。
2-2. 検査項目
事例検体および対照ヒラメは、国立感染症研究所細菌第一部 大西 真先生および病原体ゲノム解析研究センター 黒田 誠先生の協力を得て超高速シークエンサーを用いた病原因子の網羅的検索を行った。ここで検出された寄生虫(クドア属)18S を対照に、感染研が確立したコンベンシ
ョンPCR およびRNA を用いた定量的RT-PCR を用いて、現在ある喫食検体ヒラメ21 検体および対照ヒラメ16 検体を測定した。ヒラメの対照PCRとしてHIRAME-18S-rDNA を用いた。
マリントキシンについては、独立行政法人水産総合研究センター中央
水産研究所 鈴木 俊之先生の協力を得て、下痢性貝毒2 種、脂溶性貝毒6
種のマリントキシンを対象にLC-MS/MS 分析を行った。
ヒラメに感染を起こすStreptococcus parauberis については、対照ヒ
ラメ中の菌検出を行うとともに、大分県農林水産研究センター水産試験
場 福田 穣先生から譲渡された菌株とあわせ、レンサ球菌属が持つ毒素
遺伝子検索をPCR 手法も用いて検討した。

3. 結果
3-1.超高速シークエンサーを用いた病原因子の網羅的検索の結果、事例ヒラメには対照ヒラメと比べ 粘液胞子虫(クドア属)が有意に多く存在
することが明らかになった。
3-2.感染研が事例検体のうち5 検体を用いてコンベンションPCR を行ったが、量的な知見が必要であると考え、定量的RT-PCR を確立した。国立衛生研究所は,事例検体および対照検体を対照に定量的RT-PCR を行っ
た。その結果、図3 で示すように対照検体ではすべて25 サイクル以上
を示したのに対し、事例検体ではすべて25 サイクル〔CT 値〕以下を示
していた。最も低いサイクル数は、8.3 であった。CT 値が低いほど含ま
れていた18S rRNA 量が多いことを意味するので、5 事例品を用いて、定量的RT-PCR と虫体の鏡検による実測値の相関性を検討した結果、CT 値が15 未満の場合は10 万個/g 以上、CT 値が10 未満の場合は100 万個/g以上の虫体が鏡検で確認された。
3-3.マリントキシンは、5 事例群を用い、下痢性貝毒としてオカダ酸、ジノフィシストキシン群、脂溶性貝毒としてペクテノトキシン群、エットトキシン群、ブレベトキシン群、ドウモイ酸群、アザスピロ酸群、パリトキシン群を測定した結果、測定に供した事例試料からはいずれの貝毒も検出されなかった。
3-4.Streptococcus parauberis は、タンパク質分解酵素活性を示すエクソトキシンB と類似する遺伝子を保有していた。

4. 考察
超高速シークエンサーを用いた病原因子の網羅的検索から、事例検体に
存在し対照検体にない生物体として粘液胞子虫(クドア属)が示された。さらに、粘液胞子虫(クドア属)の18S rRNA を定量的に検出出来るRT-PCR の系を用いて、事例検体を測定した結果、事例検体の中には、喫食された残品とは限らないものも少なからず含まれている可能性があることを考慮に入れたとしても、対照検体に比べて粘液胞子虫(クドア属)が多く含まれていることが示唆された。
しかし、今回用いた定量的RT-PCR 用のプライマーは多種の粘液胞子虫(クドア属)に反応性を示すものであり、検出された粘液胞子虫(クドア属)が多種類存在するかどうかは現在のところ不明である。また、虫体が直接的に病原性を有しているのかは今後の検討が必要である。これらの結果から、すくなくとも事例検体には粘液胞子虫(クドア属)が多く検出される傾向があることは示唆された。

Ⅳ.まとめ
これまでの報告において、多くの事例報告と保管検体の提供協力が得られ、いくつかの知見が得られているが、これら多岐に渡る事例について、症例や食材の有意性、調査研究結果等から、各地の事例が同一の病因物質によるものか等を明らかにし、その対策を講ずるためには、更なる事例の収集と解析を進めていかなければならない。このため、引き続き、都道府県等との情報共有と連携を図るとともに、国立試験研究機関における病因物質特定ための調査研究を進めていく必要がある。
図3 定量的RT-PCR によるクドア18s rRNA の検出

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