ようこそ、保健所情報支援システムへ。~平成28年度地域保健推進事業(全国保健所長会協力事業)~

動かない(動けない)理由を超えて

専門家意見

動かない(動けない)理由を超えて

国立国際医療研究センター 国際感染症センター 堀 成美(感染症対策専門職・看護師)

「それ以外」はどうするのか?

保健所の医療職を対象とした感染症対策の研修の中で疑問に思ったことがあります。感染症についてどんな仕事をしたことがあるのか、現在しているのか?という問いに、ほぼ全員が同じ項目を挙げました。結核、インフルエンザ、HIV、、とホワイトボードに病原体名が並びます。これらは「やることになっている」「毎年やっている」、事業化されたものであり、一定のニーズのもとはじまったものです。しかし、人口構成や地域特性を踏まえた違いはなかなか出てきませんでした。地域における健康問題のアセスメントの中で「リスクの評価」が行われていないのかもしれないと思いました。感染症は起きないようにすることが最善ですので、地域に潜在的なリスクはないだろうか?という頭と心の引き出しと、住民や現場の人が気づいている問題や不安をキャッチする努力をしないといけないのだと考えています。前任者がやっていたこと、予算がついていることだけでよいとおもいますか?それ以外をケアしていない理由はなんですか?と問いました。また、実際に問題が発生したときの迅速対応の障害になる見えない壁をどうすればいいのか?を皆で考えました。

法律? 上司からのストップ? 自己規制?

具体的な事例を紹介したいと思います。
1)「5類」は観察だけでよいのか
性感染症は5年に一度改定される特定予防指針のある特別な位置づけの感染症です。HIVや梅毒のように生命にかかわるもの、母子感染につながるもの、不妊症につながるものなどもあります。あるとき地域で急性C型肝炎が性的コンタクトで増えていることが把握され、保健所関係者に相談をしたのですが、一番最初に言われたことは「5類だから」でした。5類だと何もしない、しなくてよいという法律上の記載はありません。症状の気づきにくいウイルス感染症が拡大している現状と、このままさらに広がる可能性について一緒に検討し、何らかの介入を検討したいと思って相談をしたのですが、うまくいきませんでした。
2)ガイドラインやマニュアルがない場合どうするのか
2012-2013年に都市部の成人を中心に風疹が流行したときに、企業の方から事業所内で複数発症していることについての相談がありました。
地域の保健所に助言を求めるよう伝えましたが、「電話したが保健師から情報が得られなかった」「麻疹と違って特別な対応をすることになっていないと言われた」という事後報告がありました。当時、指針やマニュアルはありませんでしたが、周囲への感染拡大を食い止めるための情報提供をしたり、啓発を行った保健所も多かったのですが、このような反応もありました。
保健所の担当部署に相談をしてうまくいかないような場合、次にどうすればいいのだろうと悩んだ件です。似たような事例は他の感染症でも経験しています。

その先にいくための対話

上記のような状況において、「潜在リスクを放置するのか」あるいは「制度や仕組みがわかってないな」というその場のリアクションで終わり、不信や批判の空気が臨床や公衆衛生の間に漂うことじたいが危機管理としてリスクであると考えています。そこで終わらないために、保健所のリーダーである保健所長に相談をしたり、公衆衛生のメーリングリストに参加し、情報共有を試みています。また、病院で感染症のカンファレンスやセミナー開催する時には演者やコメンテーターとして保健所の方にも入ってもらうような工夫を臨床の人たちにも提案しています。そこで、ともに地域や市民を守る専門職としての対話を行うことから危機管理が始まると考えているからです。

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