ようこそ、保健所情報支援システムへ。~平成28年度地域保健推進事業(全国保健所長会協力事業)~

国立感染症研究所感染症疫学センターと実地疫学専門家養成コース

専門家意見
国立感染症研究所感染症疫学センターと実地疫学専門家養成コース(FETP)の保健所へのアウトブレイク疫学調査支援

国立感染症研究所感染症疫学センター 主任研究官
実地疫学専門家養成コースコーディネーター
中島一敏

 国立感染症研究所は、「感染症を制圧し、国民の保健医療の向上を図る予防医学の立場から、広く感染症に関する研究を先導的・独創的かつ総合的に行い、国の保健医療行政の科学的根拠を明らかにし、また、これを支援すること」を目的とし、「研究業務、感染症のレファレンス業務、感染症のサーベイランス業務、国家検定・検査業務、国際協力関係業務、研修業務等の業務」を行う国立の試験研究機関です。
 平成11年4月に施行された感染症法では、国立感染症研究所に中央感染症情報センターを設置することが述べられています。感染症疫学センター(IDSC)は、平成9年度に感染症疫学部が発展解消され、感染症研究所内に設置されたもので、国のサーベイランス事業の中で、中央感染症情報センターとして位置づけられています。感染症情報(患者情報、病原体情報、血清疫学情報)の収集・分析・提供、感染症対策に関する立案と技術支援、実地疫学調査及び専門家の養成(実地疫学専門家養成コース:FETP)、病原体診断及びその技術の講習、およびこれらをより有効に実施するための研究を、疫学センター内6室が共同して行っています。
 FETPは、アウトブレイク調査等の技能をもつ感染症危機管理の専門家の育成を行う2年間の研修プログラムとして、平成11年度に設立されました。2年の殆どが実務を通した研修であり、感染症サーベイランスのデータ分析、アウトブレイク調査、疫学研究等を行います。さらに、国内外のネットワークを構築し、実際のアウトブレイク対応にあたっています。卒後臨床研修中、研修医が医師として医療を提供するのと同様、FETPは、スタッフの指導のもとで疫学専門家として実務にあたります。世界的に感染症危機管理の重要性の認識が高まる中、世界のあらゆる国や地域で、同様の2年間の実地疫学プログラムが設立されており、その数は50を超えています。FETPはこのような海外のプログラムとも積極的に連携を行っています。
 感染症研究所は行政機関ではありませんので、感染症法に基づく感染症対策の実施主体となることはできませんが、保健所、都道府県庁、厚労省などの行政機関から依頼がある場合に、行政機関を支援する形で、感染症疫学センターやFETPはアウトブレイクの疫学調査や対応を行うことになります。
 これまで、国内では、医療機関・社会福祉施設におけるアウトブレイク[腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症、セラチア菌感染症、肺炎クラミジア感染症、サルモネラ症、B型肝炎、薬剤耐性菌(VRE、MDRP、MDRA)、術後感染症、ノロウイルス感染症、クロストリジウム感染症等]、原因不明脳炎脳症のアウトブレイク、新興感染症[鳥インフルエンザ(H5N1, H5N2)、SARS、新型インフルエンザ、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)等]、学校職場等におけるアウトブレイク[麻疹、風疹、百日咳、細菌性赤痢、髄膜炎菌感染症等]、動物由来感染症[オウム病(鳥や動物の展示施設)、レプトスピラ症(地域発生)]、感染症の地域流行(麻疹、風疹、百日咳、ビブリオ・バルニフィカス感染症)、広域食中毒(EHEC、毒素原生大腸菌感染症)、災害関連の感染症対策(避難所におけるノロウイルス感染症アウトブレイク、感染症リスク評価)等の実地調査や対応支援を行っています。海外では、WHO等と連携して、中国・ラオス・フィリピン等のポリオ対応、麻疹対策、コレラ対応、SARS対応の支援を行っています。また、SARS以降、殆どの研修生が、2か月間マニラのWHO西太平洋地域事務局へ派遣され、国際的な感染症アウトブレイク監視と対応の業務に関わっています。
 都道府県庁や保健所からの依頼で、私達がアウトブレイク調査を行う場合は、通常、保健所の調査対応チームに加わることになります。目的は、第一に、アウトブレイクのコントロールや再発防止に寄与することです。疫学調査の情報や調査結果は保健所と共有し、断りなく外部に提供することはありません。また、アウトブレイク調査は、人材育成の重要な場ともなります。私達は、可能な限り、保健所等の職員と一緒に調査をさせて頂けるようにお願いしていますが、それは、調査対応上の必要性とともにその職員の方のトレーニングになるという意図もあります。
 施設内アウトブレイクの場合には、施設関係者の役割が感染症コントロールに欠かせないことも少なくありません。薬剤耐性菌による院内感染対策では、ICTを始めとする病院関係者が対策の主役となります。その様なアウトブレイクの対応では、最初は、医療機関や行政、私達の関係は緊張感を伴い始まることもありますが、対策を進めるためには信頼関係を構築することが重要です。異なる立場の関係者が、アウトブレイクのリスク評価、調査対策の目的と目標、役割分担を共有する事が不可欠になります。そのような認識の共有のお手伝いをすることも調査と同時に行います。
 先にご紹介したアウトブレイク調査対応支援の例は、自治体等から正式な依頼を頂き実地調査を行ったものですが、実際には、自治体が依頼を出すかどうかの判断に至っていない場合や、本格的な現地調査支援には至らなくても何らかの相談が期待される場合があり、そのような場合のご相談も積極的にお受けしています。是非お気軽にご相談下さい。

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