ようこそ、保健所情報支援システムへ。~平成28年度地域保健推進事業(全国保健所長会協力事業)~

在宅医療・地域包括ケアシステムの推進に関する見解(平成25年度報告)

地域保健の充実強化に関する委員会

在宅医療・地域包括ケアシステムの推進に関する見解(平成25年度報告)
全国保健所長会 地域保健の充実強化に関する委員会

Ⅰ はじめに
・ わが国では、団塊世代の高齢化に伴い、高齢者(一人暮らし)世帯、要医療・要介護高齢者、認知症高齢者等の急速な増加が懸念されている。
・ そのため、それぞれの地域の実情に応じて、①医療(+看護)、②介護(+リハビリ)、③予防(+保健)、④生活支援(+福祉サービス)、⑤住居(+住まい方)の5つの視点と自助、互助、共助、公助の4つの支援による地域包括ケアシステムを推進する必要がある。特に、急速に高齢化が進む都市部では、地域包括ケアの推進は喫緊の課題となっている。
・ 地域包括ケアシステムの推進は保健所にとって全く新しいテーマではない。従来から、県型・市型にかかわらず、保健所は、難病患者、精神障害者、障害児等の在宅ケアや、地域リハビリテーション推進事業による急性期~維持期(生活期)の連携、緩和ケアの推進など、保健・医療・福祉のネットワークを推進するとともに、介護予防の観点からも様々な事業に取り組んできた。¹⁾
1) 平成18年10月の 全国保健所長会「医療制度改革における緊急アピール」において、「地域連携クリティカルパスなどの医療機関間の連携調整と医療福祉連携の推進」「在宅(居宅)医療の基盤整備、介護保険事業計画との調整」「在宅(居宅)患者を中心とした医療福祉連携の仕組みづくり(退院後の医療福祉連携)」等を提唱
・ 既に「住民・地区組織」「施設・団体・事業者」「行政」が協働して健康なまちづくりを推進するにあたっての保健所の役割が提言されている2)。地域コミュニティを基盤とし、ソーシャルキャピタルを活用した取り組みは地域包括ケアシステムにも通じるものである。
2) 平成22年度地域保健総合推進事業「健康なまちづくり(ヘルスプロモーション)における保健所の役割と機能に関する研究」
・ 今後、保健所は、市町村(市型保健所の場合は自市)との連携・協働により、在宅医療・地域包括ケアシステムの推進に積極的に関与すべきと考える。以下にその必要性と具体的な取り組みについて示す。

Ⅱ 取組みの必要性とその根拠
1.新たな医療計画・地域医療構想(地域医療ビジョン)
・ 平成25年度からの医療計画において、新たに「在宅医療」及び「精神疾患(認知症含む)」について医療連携体制の構築が図られることになった。「脳卒中(維持期含む)」、「がん(緩和ケア含む)」等も含めて、それぞれの体制構築に係る指針に基づき、保健所が地域における関連資源と実態を把握するとともに、圏域連携会議等を通じて、在宅医療・医療介護連携・地域包括ケアのネットワーク構築を図ることが期待される。
・ 医療計画は、がん対策推進計画、健康増進計画、介護保険事業支援計画、障害福祉計画等との連携・調和が求められ、組織横断的な取り組みが重要であるとともに、地域における展開には、圏域の医療計画と、市町村の健康増進計画、介護保険事業計画、障害福祉計画等との連携が不可欠であり、保健所は本庁関係各課と協議しながら、主体的に取り組むことが期待される。
・ 医療法改正によって、医療計画には、病床機能情報の報告制度を踏まえた地域医療構想(地域医療ビジョン)の追記が予定され、「2025年に目指すべき医療提供体制;二次医療圏等(在宅医療は市町村等単位)ごとの医療機能別の必要量」と「目指すべき医療提供体制を実現するための施策」が打ち出されるとともに、在宅医療・介護連携に係る市町村の役割が医療計画に位置づけられる。また、今後、医療計画の計画期間が6年となり、在宅医療など介護保険と関係する部分は中間年(3年)で必要な見直しを行うこととされている。
・ 医療計画は市町村介護保険事業計画(地域包括ケア計画)を踏まえた内容にするよう、要請3)されており、圏域の医療計画を推進する保健所では市町村の介護保険事業計画の策定・推進に積極的に参画する必要がある。
3) 社会保障制度改革国民会議報告書
・ 特に、市型保健所では、介護保険・高齢者福祉等を担当する部局と同じ指揮命令系統にある強みを活かし、当該市における在宅医療・介護連携を推進する部局横断的な体制に保健所が組み込まれることが期待される。
・ なお、圏域の医療計画を所管していない保健所であっても、医療計画における、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、精神疾患、糖尿病等の各指標や施策は、健康増進計画(がん、循環器疾患、こころの健康、高齢者の健康、糖尿病等)の推進にも通じるものであり、保健所の立場で意見を反映させていくことが期待される。

2.地域保健対策基本指針
・ 平成24年7月の「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」の改定では、「医療、介護、福祉等の関連施策との連携強化」における保健所の役割として、① 医療機関間の連携体制の構築における積極的関与、地域の医師会等との連携や協力の下での公平・公正な立場からの調整機能発揮、② 所管区域内の健康課題等の把握、評価、分析、公表が明記された。さらに県型保健所には、1) 急性期、回復期及び維持期における医療機関間の連携、医療サービスと介護サービス及び福祉サービス間の連携による地域包括ケアシステムの強化、2) 所管区域内の市町村との情報共有化、重層的連携の下での地域保健対策推進、3) 介護及び福祉等の施策との調整等が示された。
・ また、同指針では、保健所の運営について、健康なまちづくりの推進の一環として、医療機関間の連携調整、医療サービスと保健サービス・福祉サービスとの連携調整を行うことが示されている。
・ 平成25年4月の「地域における保健師の保健活動に関する指針」では、地域のケアシステムの構築、介護保険事業(支援)計画や医療計画等の策定・実施における保健師の果たす役割が明記されており、地域包括ケアシステムを推進することが期待される。

3.在宅医療の推進に向けた地域包括ケアシステム
(1)地域包括ケアシステムの推進
・ 国及び地方公共団体は、地域包括ケアシステムを推進することとされており4)、平成24年度から、在宅医療・介護の推進に向け、「予算での対応」、「制度的対応」、「診療報酬・介護報酬」等の施策を総動員した「在宅医療・介護あんしん2012」が展開されている。
4)介護保険法第5条第3項
・ 地域包括ケアシステムは、介護保険事業計画や障害福祉計画等の主体である市町村が中心で進められており、地域医療再生基金による在宅医療推進事業においても、市町村主体の考えが示されている。また、介護保険法の改正によって、在宅医療・介護連携拠点の機能については、今後、地域支援事業の包括的支援事業に位置づけられ、市町村が主体となって取り組むことが予定されている。
・ 各種法律5)で保健所による市町村支援が規定されていることを踏まえ、保健所が市町村(市型保健所の場合は自市)の福祉関係計画(介護保険事業計画、高齢者保健福祉計画、障害福祉計画、地域福祉計画等)に積極的に関与し、市町村と連携・協働して、在宅医療・地域包括ケアシステムを推進することが期待される。
5)地域保健法第8条、介護保険法第38条、精神保健福祉法第49条第3項、母子保健法第8条
・ 健康増進計画では、「高齢者の健康」に関する目標値(介護保険サービス利用者の増加の抑制、認知機能低下ハイリスク高齢者の把握率の向上、高齢者の社会参加の促進等)が設定6)されており、介護保険事業(支援)計画・高齢者保健福祉計画等との一体的推進が不可欠であるとともに、各種健康増進事業を通じて、高齢者医療確保法に規定する医療費適正化の推進を図る必要がある。平成25年度に稼動した国保データベース(KDB)システムによる医療介護情報の統合的利活用の推進にあたって、保健所は管内市町村(市型保健所の場合は自市)の介護保険・高齢者福祉所管部局や国民健康保険所管部局等との連携・協働が期待される。
6) 国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針
(2)脳卒中やがん等の医療連携・医療介護連携体制
・ 拠点病院を中心とした脳卒中やがん等の連携体制(地域連携パスの推進等)に関して、中核的病院同士の調整が必要(特に都市部)であるとともに、地域によっては市町村域を超えた広域的な連携が必要(特に郡部)であり、保健所の役割が期待される。また、がん緩和ケア等に伴う、在宅での麻薬管理や医療機器・医療材料の供給・管理等においても、薬事業務を所管する保健所の関与が求められており、平成25年度から薬局の許認可や立入検査等が保健所設置市に権限委譲されていることも踏まえたい。
・ 医療と介護の連携の推進において、都道府県は広域的に対応する必要がある調整等について保健所を通じて市町村の支援を行うことが重要7)とされており、厚生労働省の平成26年度新規事業「都道府県医療介護連携調整実証事業」では、二次医療圏の医療・介護ネットワークにおける保健所による調整の役割が位置づけられている。
 7)社会保障審議会医療部会「医療法等改正に関する意見」
(3)難病対策
・ 今後の難病政策の方向として、「保健所を中心とした地域支援ネットワークの構築」が打ち出されているが、保健所は従来から、神経難病患者の在宅ケアや医療依存度の高い小児の在宅ケア等に取り組み、地域の関係機関・関係者との顔の見えるヒューマンネットワークを構築してきている。このネットワークを活用し、さらに強化・発展させるという観点からも保健所の取り組みは重要である。
(4)保健所が取り組む意義
・ 保健所には、各種専門職(医師、歯科医師、薬剤師等)の配置や医事・薬事関連業務(医療従事者免許事務、医療統計事務、各種届出事務、立入検査、医療安全相談、医療計画等)など、一般の市町村にはない特性があり、地域の職能団体(医師会、看護協会、歯科医師会、薬剤師会、栄養士会等)とのつながりがあるとともに、感染症対策や集団給食指導、食品衛生対策等を通じて、普段から介護・福祉施設との関わりがある。また、様々な事業を通じて、住民組織や患者・家族団体にも働きかけしやすい、など、保健所は、在宅医療・医療介護連携・地域包括ケアを推進する上で、絶好の立場にあることを認識すべきである。
・ 医療機関、介護施設、薬局等の経営母体が異なる機関間のオープンな連携を推進するためには、中立・公正な立場からの調整機能が発揮できる保健所の役割が期待される。
・ 地域コミュニティを基盤とし、保健・医療・福祉・介護等のソーシャルキャピタルを活用した取組みは地域包括ケアシステムにも通じるものである。

Ⅲ 具体的な保健所の取り組み
1.在宅医療の充実強化
・ 地域医療再生基金による在宅医療の充実強化事業による取り組みでは、① 地域の医療・福祉資源の把握及び活用、② 会議の開催、③ 研修の実施、④ 24時間365日の在宅医療・介護提供体制の構築、⑤ 地域包括支援センター・ケアマネを対象にした支援の実施、⑥ 効率的な情報共有のための取組(地域連携パスの作成の取組、地域の在宅医療・介護関係者の連絡様式・方法の統一など)、⑦ 地域住民への普及・啓発 が例示されている。
・ これらの取り組みを、保健所は、難病患者、精神障害者、障害児等の在宅ケアや、地域リハビリテーション推進事業による急性期~維持期の連携等において、市町村(市型保健所の場合は自市)や地域包括支援センター等の関係機関と連携しながら進めることが期待される。
・ 圏域の医療計画を所管している保健所では、在宅医療、脳卒中(維持期含む)、がん(緩和ケア含む)、精神疾患(認知症含む)等について、厚生労働省通知「疾病・事業及び在宅医療に係る医療体制について 医政指発0330第9号 平成24年3月30日」を参考に、広域リハビリテーション支援センター、がん診療連携拠点病院、認知症疾患医療センター等と連携しながら、医療・福祉資源を把握し、指標による評価を行うとともに、圏域連携会議等を通じて、ネットワークの構築を図ることが期待される。
・ 今後、取組む保健所では、以下の(1)~(4)について、既存事業の活用や、関係機関・団体の取組みへの参加・協力など、可能なものから取組むことが考えられる。
(1)地域の医療・福祉資源の把握
・ 医療・福祉資源の実態把握方法としては、① 医療機能情報、介護サービス情報、薬局機能情報や、地方厚生局ホームページの診療報酬施設基準(在宅療養支援病院・診療所・歯科診療所等)の利用、② 医療施設調査(個票)、介護サービス施設・事業所調査(個票)の利用、③ 関係機関・団体による会議資料や研修資料の入手、④ 面会・ヒアリング(地域で熱心に取り組んでいる人物への訪問、立入検査の機会を活用等)、⑤ アンケート調査による実績・意向調査 などが考えられる。
(2)在宅医療・地域包括ケアシステムの構築・推進に係る会議や研修
・ 在宅医療・地域包括ケアシステムの構築・推進に係る会議や研修は、① 多職種の顔のみえる関係づくり、② 関係機関の役割の共有、③ 地域ニーズ・課題の共有、④ 多職種の資質向上等を目的8)とし、グループワークやワールドカフェ方式等の採用も考えられる。
・ また、市町村や医師会をはじめ、関係機関・団体(ケアマネジャー協議会、地域密着型サービス協議会、地域包括支援センター協議会、訪問看護事業所協議会、介護保険事業所協議会、病院地域連携室協議会 等)主体の取り組みにも参加・協力することが期待される。このため、保健所は、普段から、これら関係機関・団体とのコミュニケーションを図るとともに、必要に応じて共催や後援を行うことが期待される。
(3)住民に対する普及啓発
・ 住民に対する普及啓発は、住民が、1) 地域の実情を知る(例:自らの自治体の医療、介護、福祉のほか、平均寿命・標準化死亡比等によるから相対的健康水準などを知る)、2) 従事する職種の機能や役割を知る、3) 利用できるサービス内容(コスト含む)や相談場所を知る、4) 療養場所として「在宅」が選択肢にあることを理解する等を目的8)に、a)講演会、フォーラム、シンポジウム、b)関連ガイドブック、マップ、リーフレットの作成、c)ホームページ掲載、ケーブルテレビ放映等が考えられる。これらについては、地域リハビリテーション、難病、精神保健福祉、介護予防、緩和ケア、医療介護安全、医療計画等の様々な関連事業を活用しながら実施することが期待される。
8) 村嶋幸代監修「24時間365日安心して暮らし続けられる地域に向けて」木星舎 p97~136「在宅医療推進事業の手引き 保健所と地域の協働による在宅ケアシステムのつくり方」
(4)医師臨床研修や医学生等研修での採用
・ 医師臨床研修や医学生等の研修を受け入れている保健所では、在宅医療・地域包括ケアシステムにかかる研修内容を積極的に検討するとともに、臨床研修指定病院や大学にアピールすることが期待される。

2.調査研究報告等の活用
・ 地域保健総合推進事業「在宅医療・医療介護連携・地域包括ケアの推進における保健所の役割に関する研究」や「地域医療再生計画における保健所の関与に関する研究」では、全国各地の保健所において、在宅医療・地域包括ケアシステムの推進に向けて、様々な取り組みが行われていることが明らかになっている。
・ 今後、同研究で紹介されている事例や近隣自治体で展開されている事例なども参考にしながら、地域の実情に応じて積極的に取り組まれることが期待される。

Ⅳ 終わりに
・ ヒューマンネットワークによる在宅医療・医療介護連携・地域包括ケアを推進することが、地域における健康危機管理の強化にもつながる。
・ 在宅医療・地域包括ケアシステムの推進は、平成24年3月の地域保健対策検討会報告書に記載された「地域性・時代性を重視した高度な非定型業務」にあたり、県型・市型にかかわらず、今後の保健所にとって重要な公衆衛生業務の一つである。保健所が福祉関係部署等の機関と組織統合されている場合は、保健福祉の統合組織として保健所機能の推進が期待される。また、保健所の役割が果たせるよう、適切な人員配置、予算の確保が必要である。
・ 今後、新たな医療計画や地域保健対策基本指針等を踏まえて、保健所の役割を再認識し、それぞれの保健所が置かれた立場で、市町村、医師会をはじめ、地域における関係機関・団体との連携・協働で、主体的・能動的に、創意工夫しながら、チーム力で取り組むことが期待される。

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