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感染源者ワクチン効果

感染源者ワクチン効果

新型コロナウイルス感染症オミクロン株BA.2の感染性へのワクチンの効果 
令和5年度地域保健総合推進事業 全国保健所長会協力事業全国保健所長会協力事業
事業協力者:緒方剛  事業分担者:田中英夫 

【目的】
新型コロナウイルス感染症オミクロン株BA.2の家族内での二次感染率を計測し、初発陽性者とその濃厚接触家族双方のワクチン接種状況が感染リスクにそれぞれどう影響するかを評価することを、目的とする。

【方法】
家庭内初発患者は新型コロナウイルスオミクロン株BA.2が優勢であった令和4年4月21日から30日(文献1)において、茨城県潮来保健所に発生届が出された報告された者のうち、家庭内で最初に発症した患者とした。対象は初発患者と同居する家庭内濃厚接触者とした。既感染の接触者は除外した。患者の発症届および接触者の健康観察時における積極的疫学調査結果に加えて、不足する情報については保健所による補充調査を行った。本研究は2022年2月2日に、茨城県疫学研究合同倫理審査委員会の承認を得た(承認番号R3-10)。

【結果】
上記期間中に患者が発生し、かつ家庭内に接触者を有する家庭は388あった。これら388家庭における家庭内濃厚接触者は1187人であった。このうち、感染歴のある7人とワクチン接種歴などの関連データが得られなかった228人を除外し、残りの952人を解析対象とした。このうち395人が二次感染しており、家族内感染率は41.5%であった。
対象者がワクチン2回接種を完了していない場合の感染率は48%であり、最後のワクチンを接種して3か月以上経過している場合には感染率は42%であった。これに対し、対象者が最後のワクチンを接種して3か月未満の場合には感染率は32%と有意に低値であった(p<0.01)。(表1)

表1. 家族内濃厚接触者のワクチン接種回数と接種からの経過時間別に見た感染率
ワクチン接種後経過期間 接触者数 感染者数 感染率(%)
2回接種を完了していない 382    185    48.4
3か月-         255    108    42.4
0-2か月         315   102     32.4

次に、家族内の初発患者側のワクチン接種状況と、対象者の感染率との関係を見た。初発患者がワクチン2回の接種を完了していない場合に、対象者である接触家族における感染率は46%であるのに対して、初発患者がワクチンを2-3回接種している対象者の感染率は36%と、有意に低値を示した (p<0.01、ワクチン効果22%)。(表2)

表2 家族内初発患者のワクチン接種回数別に見た接触家族の感染率
初発患者ワクチン接種回数 接触者数 感染者数 感染率(%)
0-1            515    238    46.2
2-3            437    157    35.9

次に、対象者をワクチンを2回接種していないか、もしくは最後のワクチンを接種して3か月以上経過している家族接触者637人に限定して、初発患者のワクチン接種回数別に感染率を見た。初発患者がワクチン2回接種を完了していない場合の対象者の感染率が52%であるのに対し、初発患者が2-3回接種している場合は38%と、後者で有意に低値を示した。(p<0.01、ワクチン効果27%) (表3)

表3 家族内初発患者のワクチン接種の有無による3か月以未満でワクチンを接種していない家族接触者の感染率
初発患者ワクチン接種回数 接触者数 感染者数 感染率(%)
0-1            365   190   52.1
2-3            272    103   37.9

次に、対象者を最後のワクチンを接種して3か月未満の家族接触者315人に限定して、初発患者のワクチン接種回数別に感染率を見た。初発患者がワクチン2回接種を完了していない場合に感染率が32%であったのに対し、初発患者が2-3回接種している場合は33%と、差が見られなかった。 (表4)

表4 家族内初発患者のワクチン接種の有無による3か月未満にワクチンを接種した家族接触者の感染率
初発患者ワクチン接種回数 接触者数 感染者数 感染率(%)
0-1             150   48   32.0
2-3             165    54   32.7

【考察】
オミクロン株BA.2において、3か月未満にワクチンを接種している家族接触者では、最終接種から3か月以上経過していた者や2回接種を完了していなかった者に比べて感染率が低下しており、感染予防効果があると考えられた。この結果は、高齢者や基礎疾患を有する者へのCOVID-19ワクチンの追加接種の継続を支持するものと考えられる。
次に、発症前に2回COVID-19ワクチンを接種していた初発患者の家族接触者で、ワクチンを2回接種していない、もしくは最後のワクチンを接種して3か月以上経過していた者での感染率が、発症前に2回のワクチン接種が終わっていなかった初発患者の家族接触者における感染率に比べて、有意に低値であった。このことは、ワクチンの予防効果が低下していた人に対しては、COVID-19ワクチンの2回接種が、他人を介した間接的な感染予防効果をもたらすことを示唆するものと考えられた。一方、最後のワクチンを接種して3か月未満のワクチンの予防効果が維持されていたと考えられた家族接触者では、初発患者のワクチン接種回数による間接的な感染予防効果は明らかではなかった。オミクロン株による感染性に対するワクチンの間接的な感染予防効果を示唆する報告としては、現在のところわれわれの研究以外にデンマークや米国における研究がある (文献2,3,4)。
本報告の限界としては、家族への感染経路が明らかでない場合には最も発症日の早い患者を初発患者としており、初発患者とその濃厚接触家族との間での誤分類の可能性があった。また、対象者におけるワクチン回数が十分に層別化されておらず、結果に影響を与えている可能性がある。また、今回取り扱わなかった家族の人数などの感染リスク関連要因が、ワクチン接種状況と交絡している可能性が残る。今後、さらに分析を進める予定である。

文献

1. 国立感染症研究所. 新型コロナウイルスの変異株について. https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10745-cepr-topics.html
2. Ogata T, Tanaka H, Tanaka E, Osaki N, Noguchi E, Osaki Y, Tono A, Wada K. Increased Secondary Attack Rates among the Household Contacts of Patients with the Omicron Variant of the Coronavirus Disease 2019 in Japan. International Journal of Environmental Research and Public Health. 2022; 19(13):8068. https://doi.org/10.3390/ijerph19138068
3. Lyngse F, et al. Household transmission of SARS-CoV-2 Omicron variant of concern subvariants BA.1 and BA.2 in Denmark Supplementary Information. Euro Surveill. 2022; 27: 2001800. doi: 10.2807/1560-7917.
4. Tan ST, Kwan AT, Rodríguez-Barraquer I, Singer BJ, Park HJ, Lewnard JA, Sears D, Lo NC. Infectiousness of SARS-CoV-2 breakthrough infections and reinfections during the Omicron wave. Nat Med. 2023 Feb;29(2):358-365. doi: 10.1038/s41591-022-02138-x.

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