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超過死亡インパクト

超過死亡インパクト

季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染を想定した年間の超過死亡インパクトの検討

令和4年度地域保健総合推進事業 全国保健所長会協力事業
新型コロナウイルス対策等推進事業」事業
事業分担者:田中英夫 事業協力者:緒方剛

1. 目的
「2021 年以降、日本でも季節性インフルエンザが流行した年よりも多くの超過死亡が確認されている。」との見解がある(文献1)。また、このような見解が、現在の新型コロナウイルス感染症対策の基礎となっている。
 超過死亡は人口動態統計などのデータに基づき計算される。しかし、我が国の後期高齢者数および死亡者数は近年急増していることから、異なる死亡年の超過死亡のインパクトを比較する場合には、死亡数について比較することは適切ではなく、超過死亡数と超過死亡以外の死亡数との比を算出し、その大きさを比較することがよりよいと考える。
本研究は、人口動態統計などに基づき、過去25年間において、季節性インフルエンザが流行した年と新型コロナウイルス感染症が流行した2021 年、2022年との間で、超過死亡インパクトの大きさを比較検討することを目的とする。

2. 方法
各年について、超過死亡数と超過死亡以外の死亡数との比、すなわち
超過死亡比={ 超過死亡数/(全死亡数 –超過死亡数)}
を、下記の2つの研究方法で算出した。

研究1: 過去25年間(1998年から2022年)を対象とした。季節性インフルエンザまたは新型コロナウイルスによる超過死亡に関する資料について、文献およびウェブサイトにおける検索と検討を実施した。該当する文献に掲載された各年の超過死亡数と、人口動態統計から得たこれと対応する年の日本人の死亡数を、上記の数式に当てはめて超過死亡比を求めた。超過死亡数の信頼区間が掲載されている場合は、同様の方法で超過死亡比の信頼区間を算出した。

研究2: わが国で新型コロナウイルスが流行した2021年と2022年の超過死亡インパクトを算出するため、対象年の前年までの5年間における日本の各年の死亡数を用いて回帰直線を求め、これを対象年まで外挿して対象年の予測死亡数とし、計算した。2011年の死亡数については死亡数から東日本大震災の死亡数を除いた。人口動態統計から得た対象年における実測死亡数と予測死亡数の差を超過死亡と定義し、求めた。

3. 結果
研究1
季節性インフルエンザによる超過死亡の国内の文献は、これまで、高橋ら(文献2)、逢見ら(文献3)のものがあった。両研究とも超過死亡率の計算方法は、各年各月別のインフルエンザ死亡率からインフルエンザ流行月を決定し、これを除いた年間平均死亡率と各月死亡率の比を「季節指数」とし、これに平均死亡率を乗じて「期待死亡率」とし、これと実測死亡率との差を「超過死亡率」としていた。
対象期間の中で最も超過死亡数が多かった年は1999年であり、この年の超過死亡比は0.035~0.067と計算された。なおこの年の月間最大死亡数は1月の27,458人であった(文献3)。また、SARSが発生した2003年においては、超過死亡比は0.011~0.037と計算された(表1)。
次に、新型コロナウイルスが流行した2020年~22年を含む年の超過死亡を算出した研究は、国立感染症研究所からのものがあった(文献4,5)。この研究では、過去数年間の同じ週数の前後数週間の区間の死亡率を使って、その区間の死亡率の信頼区間の上限を求めてこれをその週数の「期待死亡率」とし、これと当該年の同じ週数の実測死亡率との差をその週数の「超過死亡率」とし、そうやって求めた週単位の超過死亡率を年間で足し上げたものを、その年の超過死亡率とするという方法を取っていた。
この研究で得られた2021年と22年の超過死亡数を用いて超過死亡比を計算すると、2021年は0.008~0.036、2022年(2021年10月-2022年9月)で0.026~0.064となった(表1)。2016年以前については利用できる資料がなかった。

表1 文献およびウェブサイト検索によるデータに基づいて計算した超過死亡比
年-----高橋ら2 ------------逢見ら3------------- 国立感染研4,5
年   推定値 下限 上限 ---推定値 下限 上限---下限 上限
1998 0.014 0.008 0.023 0.012 0.007 0.017 0.000
1999 0.052 0.039 0.065 0.052 0.037 0.067 0.035
2000 0.022 0.014 0.030 0.022 0.011 0.033 0.015
2001 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.001
2002 0.001 0.000 0.009 0.000 0.000 0.000 0.001
2003 0.024 0.019 0.037 0.022 0.011 0.032 0.011
2004 0.011 0.002 0.023 0.006 0.001 0.011 0.002
2005 0.020 0.008 0.032 0.019 0.010 0.028 0.014
2006 0.000 0.000 0.000 0.007 0.001 0.013 0.000
2017 -------------------------------------------0.002 0.020
2018 -------------------------------------------0.003 0.015
2019 -------------------------------------------0.001 0.008
2020 -------------------------------------------0.000 0.006
2021 -------------------------------------------0.008 0.036
2022 -------------------------------------------0.026 0.064

研究2
1998年~2022年について、回帰直線から計算した予測死亡数を用いて超過死亡比を求めた。季節性インフルエンザの多かった年については、1999年では0.042、2003年では0.025、2005年では0.037であった。新型コロナウイルスの多かった年については、2021年では0.026、2022年(2021年10月~22年9月)では0.047であった。流行の初年であった2020年は-0.024と、減少していた(表2)

表2 年毎の回帰直線から計算した予測死亡数に対する超過死亡の比
年 死亡数 予測死亡数 超過死亡数 超過死亡比
年   A   B   C=A-B   C/B
1998 936484 924249 12235 0.013
1999 982031 942543 39488 0.042
2000 961653 978071 -16417 -0.017
2001 970331 997810 -27479 -0.028
2002 982379 994488 -12109 -0.012
2003 1014951 990603 24348 0.025
2004 1028602 1008239 20363 0.020
2005 1083796 1045139 38657 0.037
2006 1084451 1097958 -13507 -0.012
2007 1108334 1120733 -12399 -0.011
2008 1142407 1136811 5596 0.005
2009 1141865 1165162 -23297 -0.020
2010 1197014 1164399 32615 0.028
2011 1237286 1212411 9093 0.007
2012 1256359 1259135 -2776 -0.002
2013 1268438 1291984 -23546 -0.018
2014 1273025 1313940 -40915 -0.031
2015 1290510 1301377 -10867 -0.008
2016 1308158 1302058 6100 0.005
2017 1340567 1316999 23568 0.018
2018 1362470 1349957 12513 0.009
2019 1381093 1383630 -2537 -0.002
2020 1372755 1407203 -34448 -0.024
2021 1439856 1403925 35931 0.026
2022 1510287 1442007 68280 0.047

考察
季節性インフルエンザが流行した1999年および2003年および新型コロナウイルス感染症が流行した2021年および2022年において、われわれが回帰直線から計算した超過死亡比は、先行文献のデータに基づく超過死亡比の信頼区間内に入っていた。これらの研究は超過死亡の算出方法が異なるものの、結果は概ね近似していたことから、これらの結果はこの年の超過死亡インパクトとして概ね妥当と思われる。
過去25年間で季節性インフルエンザが最も流行した1999年における先行文献に基づく超過死亡比と、新型コロナウイルス感染症が流行した2022年における回帰直線および国立感染症研究所のデータに基づく超過死亡比とは、いずれも0.04~0.07の範囲内にあり、大きくは変わらなかった。一方、回帰直線のデータによるという同一の方法に基づいても、過去25年間で季節性インフルエンザが最も流行した1999年における超過死亡比は0.042、新型コロナウイルス感染症が流行した2022年における超過死亡比は0.047であり、大きくは変わらなかった。
なお2022年の計算結果は、その方法から、直接または間接死因としての新型コロナウイルス感染に起因する死亡リスクに加え、いわゆる2類対応に伴う社会経済的制約や、医療アクセスの悪化に起因する新型コロナウイルス感染症以外の死因による死亡リスクの超過分が含まれていると推察される。以上より、季節性インフルエンザによる最も大きな超過死亡比を見た1999年と比較して、新型コロナウイルス感染症が大流行した2022年の超過死亡比が上回る結果は得られなかった。
超過死亡の多い年の平均寿命(0歳平均余命)について前後年における平均寿命の平均と比較すると、1999年の平均寿命は、1998年の平均寿命および2000の平均寿命の平均と比較して約0.3歳短縮していた。一方、新型コロナウイルスによる超過死亡のあった2021年については、2020年としか比較できないが、約0.1歳短縮している。平均寿命は2020年までの5年間に平均で毎年約0.1歳増加していることから、これは0.2歳程度の短縮に相当していると推測される。(文献6)
季節性インフルエンザについて、これまで法に基づいて感染者への入院措置や自宅待機要請、濃厚接触者への自宅待機要請などの法的措置は実施されたことがない。超過死亡の多かった2003年においても、感染症専門家はSARSへの厳格な対策を提言する一方、インフルエンザ対策については特段の提言はなかった。一方、2021 年以降、日本で季節性インフルエンザが流行した1999年よりも多くの超過死亡が確認されているとの根拠は、これまで示されていない。以上の経緯を踏まえると、オミクロン株が流行した2022年の超過死亡数の推計値を、新型コロナウイルス感染症陽性者に対する行動制限としての入院および自宅療養措置を継続することの法的根拠の1つとすることには、慎重であるべきであると考える。

文献
1 斉藤智也他.新型コロナウイルス感染症対策に関する見解と感染症法上の位置付けに関する影響の考察 新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード.
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001036024.pdf
2 高橋美保子, 永井正規. 1987年-2005年のわが国におけるインフルエンザ流行による超過死亡. 日本衛生学雑誌.2008 年 63 巻 1 号.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh/63/1/63_1_5/_pdf/-char/ja
3 逢見憲一, 丸井英二. わが国における第二次世界大戦後のインフルエンザによる超過死亡の推定 パンデミックおよび予防接種制度との関連. 日本公衆衛生雑誌. 2011 年 58 巻 10 号.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/58/10/58_867/_pdf
4 大日康史他. インフルエンザ超過死亡. 病原微生物検出情報.
5 橋爪真弘他. 日本の超過および過少死亡数ダッシュボード.
https://exdeaths-japan.org/
6 厚生労働省. 令和3年簡易生命表の概況.
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life21/dl/life18-15.pdf

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