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第6波流行株の潜伏期間調査結果と自宅待機期間に関する考え方

第6波流行株の潜伏期間調査結果と自宅待機期間に関する考え方

2021年1月27日作成

第6波流行株の潜伏期間調査結果と自宅待機期間に関する考え方

令和3年度地域保健総合推進事業 全国保健所長会協力事業
新型コロナウイルス対策等推進事業」
(事業分担者:田中英夫、事業協力者:緒方剛、柴田敏之、高橋佑紀)

【現在の自宅待機期間14日は、野生株において解除後に5%が発症する水準として定められました。】
 濃厚接触者の自宅待機期間が現在14日であるのは、WHOなどの基準に準拠しています。これは初期の野生株が流行していた時期における文献で対数正規分布をあてはめて推定された潜伏期間により裏付けられています。
例 武漢において97.5%は12.5日(95%信頼区間9.2日-18日)以内である (文献1)。
例 中国湖北省以外において97.5%は11.5 日 ( 95%信頼区間8.2日-15.6 日) 以内である(文献2)。
例24の報告において95%は11.7日 (95% 信頼区間 9.7日-14.2日)以内である(文献3)。
 日本では、われわれが野生株とアルファ株を合わせて対数正規分布をあてはめて、ワクチン未接種者の97.5%は10.4日(95%信頼区間8.6日–12.7日)以内であると報告しました(文献4)。これは、アルファ株の例も含んでおり、野生株のみでは上記の報告とほぼ同等と考えています。
このように、95%の野生株患者の潜伏期間は、信頼区間の上限値において概ね14日以内であることなどから、濃厚接触者の自宅待機期間は14日とされています。野生株においても5%ほどの感染者は待機解除後に発症する可能性があったと考えられます。

【潜伏期間の調査には注意が必要です。】
 潜伏期間の調査にはいくつかの注意が必要です。
 一つ目は、潜伏期間の短い症例は見つかりやすい一方、潜伏期間の長い症例は見つかりにくいです。結果として、特に初期に推定された潜伏期間は短くなる傾向があり、感染が落ち着いてくると潜伏期間の推定値が長い報告が出てきます(文献5)。しかしながら、初期の報告を参考として定められた14日という基準は、その後に変更されたわけではありません。
 二つ目は、家族、施設、職場などの集団内で感染した場合には、どの患者から感染したのか、区別が難しいです。例えば、発生届のデータから潜伏期間を推定する場合、初発患者以外の感染者からの感染データが混じると、正確に潜伏期間を推定できない可能性があります。

【デルタ株の潜伏期間の97.5%は推定値上限が8日でした。】
 デルタ株の潜伏期間に関する推定値は、査読された文献においては、これまで中国南部と日本から報告されています。
 中国南部については、3つのうち2つの文献でこれまでの株より短いことが報告されています(文献6,7)。
日本については、われわれが本年1月20日に報告したものですが、対数正規分布をあてはめると97.5%のワクチン未接種患者は6.9日 (95% 信頼区間 5.9日–8.0日) 以内に発症していました(文献4)。記載はしていませんが、95%の患者は6.1日 (95% 信頼区間 5.4日–7.0日) 以内に発症していました。今後はより潜伏期間がより長い報告がなされる可能性もあります。しかし、野生株における自宅待機期間14日に相当するものとして、デルタ株では潜伏期間の95%推定値上限である7日を自宅待機期間としてよいと考えます。

【第6波流行株の潜伏期間の95%点は推定値上限が6.8日でした。(別紙参照)】
 オミクロン株にほとんど置き換わった第6波での感染者の潜伏期間については、未だ確率分布を推計した査読された文献はありません。われわれが3つの保健所から収集した131例のデータに対数正規分布をあてはめて推計したところ、95%の患者は 5.8日 (95% 信頼区間 4.9日–6.8日) 以内に発症していました。今後はより潜伏期間がより長い症例の報告がなされる可能性は否定できません。しかし、上記の野生株における自宅待機期間14日に相当するものとして、第6波流行株では潜伏期間の95%推定値上限である7日以内を自宅待機期間と設定するのが妥当と考えます。

文献
1. Li, Q.; Guan, X.;Wu, P.;Wang, X.; Zhou, L.; Tong, Y.; Ren, R.; Leung, K.S.M.; Lau, E.H.Y.;Wong, J.Y.; et al. Early Transmission Dynamics in Wuhan, China, of Novel Coronavirus-Infected Pneumonia. N. Engl. J. Med. 2020, 382, 1199–1207.
2. Lauer SA, Grantz KH, Bi Q, Jones FK, Zheng Q, Meredith HR, Azman AS, Reich NG, Lessler J. The Incubation Period of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) From Publicly Reported Confirmed Cases: Estimation and Application. Ann Intern Med. 2020 May 5;172(9):577-582. doi: 10.7326/M20-0504.
3. McAloon, C.; Collins, Á.; Hunt, K.; Barber, A.; Byrne, A.W.; Butler, F.; Casey, M.; Griffin, J.; Lane, E.; McEvoy, D.; et al. Incubation period of COVID-19: A rapid systematic review and meta-analysis of observational research. BMJ Open 2020, 10, e039652.
4. Ogata, T.; Tanaka, H.; Irie, F.; Hirayama, A.; Takahashi, Y. Shorter Incubation Period among Unvaccinated Delta Variant Coronavirus Disease 2019 Patients in Japan. Int. J. Environ. Res. Public Health 2022, 19, 1127. https://doi.org/10.3390/ijerph19031127
5. Xin, H.; Wong, J.Y.; Murphy, C.; Yeung, A.; Ali, S.T.; Wu, P.; Cowling, B.J. The incubation period distribution of coronavirus disease 2019 (COVID-19): A systematic review and meta-analysis. Clin. Infect. Dis. 2021, 73, 2344–2352.
6. Wang, Y.; Chen, R.; Hu, F.; Lan, Y.; Yang, Z.; Zhan, C.; Shi, J.; Deng, X.; Jiang, M.; Zhong, S.; et al. Transmission, viral kinetics and clinical characteristics of the emergent SARS-CoV-2 Delta VOC in Guangzhou, China. EClinicalMedicine 2021, 40, 101129. [Google Scholar] [CrossRef] [PubMed]
6. Zhang, M.; Xiao, J.; Deng, A.; Zhang, Y.; Zhuang, Y.; Hu, T.; Li, J.; Tu, H.; Li, B.; Zhou, Y.; et al. Transmission Dynamics of an Outbreak of the COVID-19 Delta Variant B.1.617.2—Guangdong Province, China, May–June 2021. China CDC Wkly. 2021, 3, 584–586.

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