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難病分野

難病分野

新型コロナウイルスのPCR検査の考え方 第一版 

 
全国保健所長会協力事業
平成2年度地域保健総合推進事業 新興感染症対策班
分担事業者 井澤智子

新型コロナウイルス担当 緒方剛

令和2年5月1日

はじめに 
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)におけるPCR検査は、わが国では2020年2月に感染症法上の指定感染症とされたことから、届出基準の症例定義に沿った疑い例に対する必要な行政検査として各自治体の保健所を窓口に進められてきた。

(1) PCR検査の目的
PCR検査の実施には、複数の目的がある。
ひとつは、臨床医療上の目的である。これは主として、患者を適切に診断して診療するということである。また、院内感染を防止して医療の崩壊を防ぐという感染制御の意義もある。
ふたつめとして、公衆衛生上の目的である。これは患者に適切な情報を与え、感染の拡大・まん延を防止する。この観点から、PCR検査は行政検査の対象とされている。
さらに、政策立案上の目的である。地域の感染状況を把握することは、適切な対策の戦略を
地域においてPCR検査の体制を確保する際には、これらの各目的を考慮する必要がある。

(2) 新型コロナウイルス感染症のリスクと対策
新型コロナウイルス感染症は、基本再生産数が約2-3と考えられる。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2001316
一方、有効性が確認された特異的な治療薬やワクチンは存在せず、患者の致死率はこれまで3-4%程度であり、リスクは高い。このままではまん延の恐れが高く、爆発的な感染増大や医療提供体制のひっ迫の恐れもあることから、3月に新型インフルエンザ等対策特別措置法が適用され、現在は全都道府県が緊急事態措置の対象とされている。このように、新型コロナウイルス感染症の拡大の防止は極めて重要である。

(3) 国の定める行政検査の対象者について
厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について」によれば、行政検査について、「37.5℃以上の発熱かつ呼吸器症状を有し、入院を要する肺炎が疑われる」場合などに加えて、「医師が総合的に判断した結果、新型コロナウイルス感染症を疑う」場合についても対象とすることとしている。したがって、医師が必要性を判断した場合には、行政検査を積極的に実施することとなっている。
https://www.mhlw.go.jp/content/000601420.pdf
なお、無症状の濃厚接触者については、国立感染症研究所の「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」において「医療従事者等、ハイリスクの者に接する機会のある業務に従事し、検査が必要と考えられる場合、クラスターが継続的に発生し、疫学調査が必要と判断された際には検査対象とすることができる。」とされており、今般、院内感染例が増加している現状を踏まえ、医療従事者に対して検査が必要と考えられる場合は、積極的に検査するよう周知されている。
https://www.mhlw.go.jp/content/000619784.pdf

(4) 我が国のPCR検査の現状

我が国のPCR検査数は、4月26日までに、一日最大約9千件余、延べ約24.5万件である。

https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000625953.pdf
医師会などからは、医師が必要と判断したのに検査が行われなかった事例が報告されている。

累計陽性率は約10%である。

https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000625952.pdf

PCR検査の特性は十分明らかでなく、また他のウイルスとの交差性は確認されていないが、仮に事前確率10%、感度70%、特異度99.9%と仮定した場合、偽陰性約3%、偽陽性約1%と予測される。
検査の容量が少ない場合、検査の待ち時間が長くなり、発症から検査確認までの期間(report delay)が長くなる可能性がある。3 月31日までに報告された患者における、発症日から報告日までの平均期間は 9日である。

https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h_0416.pdf

(5) 検査数・検査時期が適切でないことによる臨床医療上の問題点

日本感染症学会と日本環境感染学会による「新型コロナウイルス感染症に対する臨床対応の考え方 」においては、「PCR 検査の原則適応は、「入院治療の必要な肺炎患者で、ウイルス性肺炎を強く疑う症例」とする。軽症例には基本的に PCR 検査を推奨しない。」としている。

http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/covid19_rinshotaio.pdf
このように、PCR検査について、臨床医学上の観点からは、軽症者に対する検査不足・検査確認の遅れによる問題は優先的とは考えられていない。なお、治療薬の投与開始時期による効果の差の有無については、現時点で明らかではない。

一方、院内・施設内の感染制御という観点からは、仮に院内感染の発見が遅れ、速やかに検査が行われなかった場合は、感染拡大防止の妨げとなると考えられる。
他方、発見された軽症者の入院増大により、病床不足が懸念される。3月までは厚生労働省の指示により感染者の全例が入院していたが、現在は宿泊療養や自宅療養が可能となっており、軽症入院者の宿泊療養などを進める必要がある。

https://www.mhlw.go.jp/content/000618525.pdf

(6) 検査数・検査時期が適切でないことによる公衆衛生上の問題点

公衆衛生上の観点からは、地域で検査が十分に行われておらず、感染者が適切に特定できていない場合、感染者が感染を自覚しないままに行動することになり、地域における感染やクラスターの拡大・まん延につながると考えられる。なお、保健所の積極的疫学調査において把握された濃厚接触者に対しては必要な場合に検査が実施されているが、これ以外の感染経路の不明な感染事例が増加しており、このような検査のみでは不十分である。
次に、新型コロナウイルス感染症では潜伏期は平均5日である。感染が確認されたとしても、発症後に迅速に実施されなかったため検査による確認・報告が遅れた場合には、地域における感染拡大の防止が困難となると考えられる。

https://www.ijidonline.com/article/S1201-9712(20)30119-3/fulltext#
なお、PCR検査には、感度や発症前の感染性などの限界があり、感染予防のためには社会的措置など他の施策と組み合わせる必要はあるが、そのことはPCR検査強化の公衆衛生上の意義を否定するものではない。

(7) 適切な検査数・検査時期でないことによる政策立案上の問題点

検査は、サーベイランスとしての意義を有している。仮に、適切な検査が行われていない地域では、その地域における感染状況が十分把握できないため、公衆衛生上の適切な対策を策定するために必要な情報が得られない可能性がある。例えば、感染者数の爆発的増加の把握が遅れる可能性がある。なお、PCR検査以外に、抗体測定法による検査も、個人の抗体保有状況の把握および地域の既感染率などの情報を提供する。
次に、検査が十分に行える体制がない場合、死亡した患者に対する検査が十分行われず、新型コロナウイルス感染してもわからない可能性があり、感染による死亡数も適切に把握できない。結果として、公衆衛生上のリスク評価ができない。

(8) 検査の実施体制

保健所は限られた人員で、帰国者・接触者相談センター、積極的疫学調査、地域の保健医療の連携などの多様な役割を担っており、多くの保健所および地方衛生研究所では業務量が限界に達している。したがって、保健所と地方衛生研究所により行われる行政検査の数・時期には限界がある。一方、PCR検査には、上記のように多様な目的、意義がある。したがって、地域の保健所、市町村、病院、医師会や民間機関などの多様な関係者が連携・協力して、検査の実施体制を確保する必要がある。

(9) まとめ
以上のように適切にPCR検査が行える体制を作り、また発症後に速やかに実施することは、院内感染および地域における感染の拡大を防止するとともに、地域において適切な対策を実施するために、必要である。
なお、検査時に被験者に対して、検査の手続きと方法、検査のメリットとデメリットを含めた特性と限界、陽性の場合の処遇・注意点などについて、説明してご理解をいただいておくことが大切である。

1 公衆衛生におけるPCR検査強化ついて
(1) 行政検査の意義と現状

地域で十分な数の検査を行い、また発症後に速やかに検査することは、感染者を特定して行動を制限し、地域における感染拡大・まん延を防止するとともに、住民や死亡者の感染状況を適切に把握するために、重要な意義がある。

しかし、我が国は人口当たり検査数が比べて極めて少ないにも関わらず、陽性率は他のオーバーシュートが起こっていない国に比較して高い。

人口1万人当たり延べ検査数(陽性率) 4月29日現在 米国180 (17%)、イタリア305 (11%)、ドイツ247(8%)、ロシア226(3%) 、オーストラリア214(1%)、韓国120(2%)、香港194(1%) 、シンガポール208(13%)、タイ26 (2%)、ベトナム22(0.1%)、日本13(9%)  https://www.worldometers.info/coronavirus/

(2)検体採取の場所による検査の効率化

検査を効率的に行い、検査数を増加させるためには、検体採取の場所については、病院、保健所、公共施設などにおける駐車場などの屋外敷地を確保することが考えられる。この場合、被験者が車で来所して乗車したまま実施する、テントやプレハブを設置して実施するなどの例がある。また、屋内であっても、病棟とは異なる広い建物において、換気と距離を十分確保して実施する方法も考えられる。これらによって、適切な感染予防が確保されれば一人5-10分程度で採取でき、病棟内の陰圧室などで実施するよりも、検査時間の短縮が図られる。

なお、これらの場所では詳細な診察や臨床検査はできないので、重症者などについては、指定医療機関の帰国者接触者外来などにおける別途の診察、検査が必要である。

(3) 検体採取を担当する医師および帰国者・接触者外来の運営主体

検体採取を担当する医師については、地域の状況などを考慮し、病院の医師、地域医師会の医師、保健所の医師などにより実施されている。なお、検体採取の医師が確保できない場合、次善の策として自己採痰という方法もある。
帰国者・接触者外来の運営主体についても、病院・診療所、地域医師会、保健所・自治体などが考えられる。なお、国では、都道府県医師会や郡市区医師会等に対して、行政検査を集中的に実施する機関としての帰国者・接触者外来である「地域外来・検査センター」の運営委託ができることを示している。これを推進するためには、地域において、保健所・帰国者接触者相談センターと医師会との一層の連携と情報共有が必要である。帰国者接触者外来や地域外来・検査センターは、一般への公表は原則行わない。

https://www.mhlw.go.jp/content/000622168.pdf

2 検体採取の実際
ビデオ例 
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMvcm2010260
https://www.youtube.com/watch?time_continue=9&v=1bqwnUJOEPQ&feature=emb_title
(1)検体採取のコツ 

協力 福永一郎先生(安芸福祉保健所) 西田秀樹先生(山口環境保健所) 他

・被験者
マスクを着用し、鼻の穴だけ出していただく
顔の力を抜き、少し上を向く 車ではヘッドレスト固定でよい

・検査者
真正面ではなくやや横に立つ

覗きあげ態勢は、飛沫を浴びる可能性がある
採取後に被験者のご協力への感謝の言葉を添える

・スワブの入れ方
下鼻道に沿わせてするっと一気に入れる。

うまく入らないときは、下鼻道に沿っていないか、下鼻甲介が大きい場合

腫脹の場合は、一息おいて入れる(感触は柔らかい)
鼻中隔わん曲の場合は、まっすぐ入らず軟骨・骨にあたる感じがあり(すぐ突き当たる)、無理せず反対の鼻の穴に変える

10秒程度差し込んだ状態の後、抜く直前にねじる(無理にねじらなくてもよい)

(2) 検体採取の費用負担
PCR 検査については保険適用がなされる一方、帰国者接触者外来を設置している委託契約を受けた医療機関等における保険適用検査については、初再診料など以外の自己負担を求めないこととされている。具体的には 、PCR 検査料が 1,350点(他施設で検査を実施した場合1,800点)、微生物学的検査判断料が150 点の場合、1,500 点(1,950 点)についての自己負担額が補助額される。
https://www.mhlw.go.jp/content/000620443.pdf

3 検体検査実施におけるPCR検査強化について
(1) 検査の実施機関
わが国におけるPCR検査は、国立感染症研究所、地方衛生研究所などの公的な公衆衛生システムと、大学、医療機関、民間検査会社などの臨床的なシステムの両者で実施されている。

検査の実施主体は、検査数の多い順に、地方衛生研究所・保健所、民間検査会社、検疫所、大学等、医療機関、国立感染症研究所である。今後は、地方衛生研究所以外においても、検査数を増大する必要がある。

https://corona.go.jp/expert-meeting/pdf/kihon_h_0416.pdf

(2) 行政検査における遺伝子検査方法
新型コロナウイルスに関する遺伝子検査方法については、国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに基づく方法と、一定の陽性一致率及び陰性一致率について確認されている検査法については、行政検査に使用できるとされている。
https://www.mhlw.go.jp/content/000609903.pdf
検査法の間で、国立感染症研究所が用意した臨床検体を用いるか独自の臨床検体を用いるか、検査時間、感度などに差がみられる。
https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV-17-20200318.pdf

(3) 人材・資機材の確保

試薬の安定的供給および精度管理が課題である。
検査数増大のためには、知識と経験を有する要員の確保必要となる。

https://www.jslm.org/committees/COVID-19/20200413-1.pdf
このためには、臨床医療検査分野の人材に加えて、その他の分野におけるPCR検査の知識・経験を有する人材の確保や、抽出などをより自動化した機器の開発も考えられる。

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