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感染症関連業務に関する保健所および保健所長への期待

専門家意見
感染症関連業務に関する保健所および保健所長への期待
山形大学医学部附属病院 感染制御部・検査部 病院教授・部長
森兼啓太

保健所は、地域住民の健康と衛生を支える公的機関の一つであり、その業務は非常に広範囲かつ多岐にわたる。感染症関連業務はそのひとつにすぎない。しかし病院に所属し、感染症を管理する立場から見ると、保健所の感染症関連業務は非常に重要な位置づけを占めているように感じる。

感染症以外の他疾患に関しては、短期間に発生し一時的な減少である患者数の大幅な増加(流行)をきたすことがほとんどない。長期的や視点から、疾患予防の啓蒙活動を様々な組織が実施主体となって行っている。

一方、感染症に関しては、感染症発生動向調査により地域の感染症の流行をいち早く検知し、必要に応じて注意報や警報を発することにより住民の行動変容を起こし、少しでも流行を小さくすることが場合により可能になる。これらの活動の主体は都道府県等の保健福祉部局であり、その最前線に保健所が位置している。また非流行時にはワクチン接種事業を行うが、これも実施主体は同じであり、実際の接種場所が医療機関や職場・学校であっても、保健所がその実施のカギを握っている。

病院は、感染症の治療という保健所にはない役割を担っている。市中感染症の流行時には、当該感染症に罹患した患者が受診目的や見舞客として次々と病院にやってくる。病院の中でどれほど熱心かつ厳格に感染伝播防止活動を行っていても、外部からの持ち込みによる院内の感染症流行を食い止めるのは困難である。

このように、感染症への包括的な対策は、病院が院内感染対策と当該感染症の罹患患者への適切な診断治療、保健所が市中の流行の早期察知や介入、平時のワクチン接種による疾患負荷の低下、といった役割分担をすることにより、はじめて実効性をもち、地域における感染症の制御が可能になる。

保健所長は、保健所の業務を統括し各所員に対して指示を出す立場から、感染症だけでなく様々な疾患に対する幅広い知識を有していることが期待される。しかし、医師である保健所長は、病院勤務医師が通常そうであるようにある程度の専門性(専門分野)を有していることも少なくなく、それ以外の分野には明るくないということもありうる。いや、あって当然であろう。保健所長のすべてが感染症を専門とすることは、非実際的である。

かといって、最近脚光を浴びつつある「総合診療医」のように、どんな疾患でも一応診ることができるといった能力や指向性を保健所長に求めるのもやや酷であり、またその必要もなかろう。保健所長は「指揮者」であれば良く、所員がどのような分野においてどのような専門性をもち、自分の指揮に沿って動いてくれるかを把握しておれば良いと考える。

感染症に限っても、すべての疾患の診断治療、その伝播防止を保健所長が知識として持ち、かつそれらを自分自身で実施できることはまず考えられないし、すべきでもなかろう。所員を最大限に活用し、更には地域に所在する大学病院などの医療機関に在籍する専門家と連絡を密に取っておき、そういった人材を有効活用するのが効率的である。

保健所は病院に対して、医療法に基づく立入検査の形で病院に赴き、指導を行う権限を持っている。その際、院内感染防止対策に関してもチェックすることになっているが、保健所のチェック能力について医療側からしばしば疑問が呈されているのは周知のとおりである。これは、立入検査という医療全般の監視において、院内感染防止対策の現場における詳細までチェックしなければならない制度にも問題があると考える。

制度を前提にするならば、現実的な解決策としては保健所が地域の院内感染対策の専門家と連携を密にし、場合によっては助言者として同行してもらうなどすることではなかろうか。それによって、保健所の能力不足を補うことができ、また保健所長や所員はそれ以外の重要業務により大きな労力を割くことができるのではないだろうか。

大学病院などの医療機関と保健所は、ある面では指導を受ける・指導する立場であるが、別の面では支援する・される立場であり、それらの様々な立場を有効かつ柔軟に適用してより良い医療を目指すべきである。それが患者や一般市民の健康増進につながり、保健所の存在価値が改めて認められることになるであろう。

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